アラスカ州の配当金制度から考えるベーシックインカム

ビーバーロッジのモニュメント

背景と歴史

アラスカ州には、1976年に設立された「アラスカ恒久基金」という基金制度があります。この基金は、アラスカ州の石油やガスから得られる収益の一部を州のために蓄え、州民全員に収益を公平に分配するという理念に基づいています。

基金からの配当金制度(以下、PFD)は1982年に導入され、州の天然資源から得た利益を将来の世代にも公平に還元する仕組みとして運用されており、ベーシックインカムについて調べていると必ず目に留まる制度です​。

資金源と運用

PFDの資金源はアラスカ州内での石油や天然ガスの採掘から得られるロイヤリティ(権利収入)です。この収益の一部がアラスカ永久基金に蓄えられ、州政府によって株式や債券などの投資に運用されており、その運用益が配当金としてアラスカ州民に分配されます。これにより、州の経済や州民の生活を支えるための安定した財源が確保されています​。

支払いの仕組み

PFDを受け取るための条件は、アラスカ州に1年以上居住している州民であることです。この制度は無条件のベーシックインカムとして機能しており、収入や雇用状況にかかわらず、全ての州民が対象となります。
※配当金額は年によって変動し、2024年には約3,200ドルが支給される予定

経済的影響

貧困対策

PFDはアラスカ州内での貧困率を20%近く低下させたというデータがあります。特に、家族が安定した収入を得ることで貧困家庭の子どもたちがより良い環境で育つことができ、健康や教育面でのポジティブな影響が見られています。

日本円にして年間30~40万円のPFDは、それだけで生活を行うことはできなくとも、低所得層にとっては重要な生活の下支えとなり、子どもたちの健康や育児にプラスの影響を与えています​。

子どもへの影響

研究によると、PFDの支払いにより、幼少期における虐待やネグレクトが大幅に減少し、家庭の安定が向上することが示されています。特に、配当金が早期に支払われることで、子どもが適切なケアを受けやすくなるとされています​。

日本でも所得の高い世帯と所得の低い世帯で子どもの健康面を調査した際、所得の高い子どもの方がより健康な状態で比率が高いことが示されており、PFDはその影響に大きく寄与していることが分かります。

社会的影響

労働意欲

ベーシックインカムが労働意欲を減退させる懸念が広く存在しますが、アラスカのPFDに関するデータでは、労働参加率の著しい低下は確認されていません。実際、多くの州民がPFDを利用して生活費を補いながらも、引き続き働いていることがわかっています。また、収入が安定することで、健康維持や子どもの教育への投資が可能になり、社会全体の福祉が向上しています​。

これは、年金制度のような就労による稼ぎによって受給額が減少することのない制度による影響であり、働いた分の稼ぎが手元に残ることも一つの作用と考えられています。

政治的側面

PFDは政治的に重要なテーマでもあり、州知事選挙では配当金の増額や維持が主要な争点となることが多いです。過去には、財政難から配当金を削減した知事に対する反発が強く、増額を公約に掲げた候補が当選するなど、PFDは州民にとって重要な政策問題となっています​。

※スイスではBIの導入を決める国民投票で否決された過去があることからも、フィンランドの場合は安定的な財源があることが大きな要因と考えられる

メリットのまとめ

貧困対策

PFDは貧困家庭の生活を直接支え、アラスカ州の貧困率を大幅に減少させています。家族全員が無条件で受け取ることができるため、特に低所得世帯や子育て家庭にとって重要な収入源となっています​。

家族の安定

PFDの支払いによって家族の安定が促進され、子どもがより良い育児環境で育つことが可能になります。早期の現金支給は、子どもの健康と福祉に直接的な好影響を与えています​。

健康面での改善

PFDの追加収入によって、家族は医療や健康管理に余裕を持って投資できるようになり、特に幼児期の健康改善や肥満率の低下に貢献しています。

経済活動の活性化

PFDは毎年支給されるため、消費が促進され、地域経済の活性化に寄与しています。州民が個人的な消費に使うことで、州内のビジネスやサービス業にも利益が波及します​。

政治的安定

州民がPFDを受け取ることで、州政府が資源を適切に管理し、公共の利益に還元していることが保証されます。この制度は、州の資源から得られる富を公平に分配するため、政治的安定にも寄与しています​。

雑感

アラスカ州のPFDは、現実的なユニバーサルベーシックインカム(UBI)の成功例としてしばしば取り上げられています。

特に、自然資源から得られる収益を州民全体に公平に分配するという理念は、他の国や地域でも検討されているベーシックインカムのモデルに大きな示唆を与えています。

制度の長期にわたる実施により、経済的な安定や貧困削減、家庭の福祉向上といった明確なメリットが確認されており、単なる理論ではなく実際に機能するシステムとして注目されています。

一方で、PFDは資源に依存しているため、石油価格や収益の変動が制度の安定性に影響を与える点は懸念材料です。例えば、石油収入の減少に伴う配当金の削減が過去に行われたことがあり、財政的な持続可能性が常に議論の的となっています。また、PFDのような限定的なUBIでは、長期的な経済成長や社会構造への影響が限定的であるという指摘もあります。真にユニバーサルなベーシックインカムの実現には、資金源の多様化やより広範な経済構造改革が必要かもしれません。

総じて、アラスカの事例はベーシックインカムの有効性を示す重要な一歩ですが、財源の確保策がアラスカの地の利に100%依存しています。そのため、世界規模での導入を考える際には、各地域の経済構造や財政状況に合わせた調整が必要であることが明白です。

視点を変えるのならば、地の利であったり国の文化、各国の経済構造を組み合わせることができれば、ベーシックインカムの実現は夢物語ではありません。しかし、日本ではベーシックインカムの議論は机上にすら乗っていません。だからこそ議論の余地がいかようにも残されているベーシックインカムについて、更なる議論展開がされることを期待しています。

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