3つのモデルが存在するベーシックインカム

ベーシックインカムは、個人に対して無条件で一定の金額を定期的に支給する制度ですが、有識差の中ではその実現方法や目的によって「代替型」「改革型」「追加型」の3つのモデルに分かれます。
※改革型は識者によって呼び名が異なります

日本でベーシックインカムを議論される際、主だった制度案として「代替型」が取り上げられますが、「改革型」や「追加型」の方が適しているのではと考えるので、ここではその3つのモデルについて解説します。

代替型ベーシックインカム

代替型ベーシックインカムは、既存の社会保障制度や福祉政策を全て廃止し、それに代わってベーシックインカムを導入するモデルです。このモデルではすべての国民に無条件で現金給付を行うことで、生活に必要な最低限の保障を行うのですが、年金や生活保護が手薄くなることに懸念感を抱かれます。

  • 背景
    現在の社会保障制度は、複雑な申請手続きや様々な給付金や補助金が組み合わさっており、行政コストが高く、また不公平感が生じやすいと批判されています。代替型はこれらの問題を一掃するため、シンプルで公平な制度として提案されます。
  • 仕組み
    代替型の導入により、たとえば失業保険、生活保護、年金、障害者手当など、現行の福祉や社会保障制度が全て廃止されます。その代わりにすべての国民に対して一定の額を毎月支給します。これにより生活の基礎的な保障をシンプルに提供することが可能となります。
  • 財源
    現行の福祉制度に費やされている予算をベーシックインカムに振り向けることが基本ですが、さらに大規模な制度にするためには、付加価値税例えば消費税や所得税の引き上げ、富裕層への増税が素案として示されることが多いです。
  • メリット
    • 制度の一元化で人件費含む行政コストが大幅に削減される。
    • 福祉受給のための手続きが不要になるため、制度の公平性が高まる。
  • デメリット
    • 既存の福祉制度が廃止されることで特定の弱者に対する手厚い支援が失われる可能性がある。たとえば、年金や生活保護、医療や介護のサポートが不十分になる可能性が指摘されている。
    • 一律給付のため、低所得者層には助かるが高所得者にも同額が給付されるため、社会的不公平感が残るという批判がある。

改革型ベーシックインカム

改革型ベーシックインカムは、現行の社会保障制度を全て廃止するのではなく、特定の制度を維持・改革しながら、ベーシックインカムを導入するモデルです。既存のセーフティネットを強化しつつも新たにベーシックインカムを加えることで、社会保障をより包括的にすることを目的としています。

  • 背景
    現行の社会保障制度は特定の条件に基づいて給付されるため、受給者が限定されてしまう問題があります(生活保護の補足率の低さなど)。改革型はベーシックインカムを導入することで、全ての人が最低限の生活保障を受けられるようにしつつ、特定の弱者には既存制度で追加的な支援を提供します。
  • 仕組み
    改革型では、失業保険や年金、医療保障などの制度は残しつつ、ベーシックインカムも併用されます。これにより、特定の状況(失業や高齢など)にある人々には従来通りの支援を提供し、全ての国民にはベーシックインカムによる最低限の所得保障が行われます。
  • 財源
    代替型よりも財政負担が大きいため、消費税や所得税の引き上げ、特定の補助金や減税の廃止が必要になることが多いです。また、歳出削減や新たな財源確保が課題となります。
  • メリット
    • 特定のニーズを持つ人々(失業者、障害者、高齢者など)は従来の福祉制度の恩恵を引き続き受けつつ、ベーシックインカムの給付も受けられるため、切れ目のない生活保障が得られる。
    • 現行の制度を完全に廃止しないため、制度構築から導入までがスムーズに進む可能性が高い。
  • デメリット
    • 現行の制度とベーシックインカムの併用により、行政コストがかさむ可能性がある。
    • 既存の福祉制度との調整が必要であり、取捨選択に時間がかかり制度構築に遅れが生じるリスクがある。

追加型ベーシックインカム

追加型ベーシックインカムは現行の社会保障制度を維持したまま、ベーシックインカムを「追加的」に導入するモデルです。既存の福祉制度や社会保障制度はそのまま維持され、ベーシックインカムはその上に追加される形になります。

  • 背景
    社会保障制度をそのまま維持しつつ、全ての国民に対して追加的な生活保障を提供することで、社会的不安を軽減し、貧困削減を目指します。特に経済格差や雇用の不安定性が高まる現代社会において、全員にベーシックインカムを支給することで、安心感を提供しようとする試みです。
  • 仕組み
    既存の社会保障制度(年金、医療保障、生活保護、失業保険など)を維持したまま、それに加えてベーシックインカムを全ての国民に給付します。このため弱者支援が手厚く、社会的なセーフティネットがより強固になります。
  • 財源
    追加型は最もコストがかかるため、膨大な財源が必要となります。一般的には消費税や所得税の大幅な増税、富裕層への課税強化、金融資産への課税が想定されます。また、財政の健全性を保つために、新しい税制度や経済成長による歳入増が求められます。
  • メリット
    • 既存の福祉制度が維持されるため、特定の人々(高齢者、障害者、失業者など)のニーズに対する支援が弱まらない。
    • ベーシックインカムが追加されることで、生活保障が拡大して貧困の削減や生活の安定が期待できる。
    • 社会全体に安心感をもたらし、消費活動が促進される可能性がある。
  • デメリット
    • 財政負担が格段に大きくなるため、増税や歳出削減がマストとなり、(特定層、主に富裕層の)国民負担が増える。
    • 経済的不安定要素(インフレ、経済危機など)が発生した場合、制度の維持が困難になる可能性がある。

上記の3つのモデルは、それぞれの国や地域の経済状況や政治的な選択、社会的なニーズに応じて異なる検証が必要です。海外では様々ベーシックインカムに対する検証が行われていますが、国家としての背景が異なる以上、その検証結果を鵜呑みにすることはできません。

たとえば、既存の福祉制度が充実している国では「改革型」や「追加型」が選ばれる傾向がありますが、社会保障が不十分な国では「代替型」が効果的とされることもあり、日本では上記3つのモデルをさらにカスタマイズする必要があります。

総合的な結論

日本に向いているベーシックインカムの形態は、「改革型」ベーシックインカムと考えられます。

日本はすでに多様な社会保障制度を持っており、これを一挙に廃止するのは政治的にも実務的にも困難、というか不可能です。
改革型なら既存の福祉制度を維持しながら、ベーシックインカムを通じて貧困層や非正規労働者の経済的安定を図ることができ、社会的なセーフティネットの強化が期待できます。

ベーシックインカム導入には多額の財源が必要であり、政治家の掲げにくい増税を避けることはできません。しかし、年金や生活保護の制度的欠陥は誰の目にも明らかであり、新たな社会福祉の議論は避けることができません。

ベーシックインカムを限定的な制度として議論するのではなく、多様な形にカスタイマイズ可能な政策として、持続的な制度構築を目指すための数ある選択肢のうちの一つとして取り上げるべきと考えます。

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